2018年3月9日金曜日

美術関連用語の訳語について

美術の本なのだから、美術関連用語の訳語は、できるだけ流通している語を用い、原語と訳語とを一対一の関係にするのがいいだろうと思いましたが、これが難しい。とても徹底することはできませんでした。そもそも何が一般的な用語なのかもはっきりしません。瀧口修造がその訳書『芸術の意味』(みすず書房1957初刷)のあとがきで述べています。「日本語の造形用語のほとんどが英、仏語の訳語からきており、しかも重要な用語が一定していなかったり、原語のままで用いられたりして、かなり混乱しているのが現状である。しかし造形用語の混乱とか曖昧さはわが国だけの問題ではないようである。」これは半世紀以上前に書かれたものですが、状況は今も変わりがないように思えます。訳語の選定で悩むのは、どうも私だけの問題ではないようです。

言い訳はこのくらいにして、主な美術関連用語の訳語はとりあえず以下のとおりとします。訳出を進めながら追加し、修正を加えます。

  • art :基本的には「芸術」と訳す。同じく「artist」は基本的に「芸術家」とし、前後の流れで「画家」とした。例外もある。「art schools」は「美術学校」など。
  • drawing :「 素描」とする。「デッサン」や「ドローイング」などの訳もあるが、伝統ある訳語「素描」で統一した。
  • painting:「絵画」、「」とした。
  • line :「」これは迷わなかった。
  • outline :「輪郭線」、contour:「輪郭」、contour line:「輪郭の線」。訳語では違いをうまく表していないが、三つを訳し分けた。
  • form :「」、shape:「かたち」。 訳語では違いをうまく表していないが訳し分けた。
  • mass :この基本語にうまい訳がみつからない。量塊とする訳書が多いのだが、この訳語は重すぎるし、日常使われない言葉だ。「かたまり」「まとまり」に近いと思われるが、「かたまり」は立体感を感じさせ、平面の素描には向かない。「まとまり」では統一という意味に誤解される。どうしたものか。妥協して「量塊(マッス)」とするか、「かたまり(マッス)」とするか。⇒結局、単に「マッス」としました。
  • light :「」、「明かり」、「明部」などとした。いくつかの日本語に対応する語だ。
  • a rays of light:単に「」とした。あるいは、「光のすじ」
  • light and shade :「明暗
  • shadow :「」、「陰影」、「暗部」などとした。本書では「cast shadow」が「投影、影」を意味する。また、「shade」は殆ど「light and shade」というかたちで使用される。
  • tone :「調子」とした。
  • gradation:「階調」とした。「グラデーション」のほうが分かりやすいかもしれない。 
  • shading :「陰影を付ける
  • modeling :「肉付けする
  • composition:「構図」とした。
  • design: 本書のキーワードのひとつだが、著者は特に定義をせずに使用している。だれにでも明らかな基本語ということなのだろうが私には分からない。およそ「(全体との関係で、または完成形を念頭に)(視覚)要素を構成すること、構成した効果・もの」といったような意味になると思う。訳語は、基本的に「構成」を用い、適宜「構想」「構図」「配置」「デザイン」をあてた。
  • rhythm:「リズム」とした。「律動」とするより分かりやすいのではないか。
  • feeling:「感情」とした。
  • emotion:「情動」とした。強い感情という意味での「情緒」でもいいのかもしれない。feelingの単なる言い替えで使われている場合もあるように思われる。
  • vision:「見えること」「見えるということ」とした。「視覚」という語で置き換えても意味がとおる。
  • tradition:「伝統
  • convention:「」「慣習」
  • style:基本的には「やり方」を用い、適宜「方法」「表現法」「様式」「スタイル
  • type:
  • technique:「技法」「技術」「手法」
  • method:「技法」「手法
  • medium:「表現手段
  • 画材の訳語:日本語に一般的な用語がある場合(例:brush「筆」など)のほかは、そのままカタカナで表した。

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